Friday, August 19, 2011

2011年8月9日FOMC、雑感

学識から組織運営まで総合的観点からバーナンキ議長以上に今、この難局にある米国金融政策を担える方はいらっしゃらないと考え、時代の要請、歴史的必然といったものさえも考慮せざるを得ない、というのが揺ぎ無い個人的見解です。

とは言え、9日のFOMCで表明された「調的金利政策の継続期間明確化」は、2009年4月21日のカナダに先例があるにせよ、1992年11月以来となる最多の反対票を押し切る形での導入。政策効果等を巡って早くもエコノミスト等関係者の間に論争を呼んでいる模様。

また、Black out期間終了と同時に3人の総裁は相次ぎ反対票の理由を表明しています。

一方金融市場では、低金利政策の継続期間をより明確にすることで期待できるイールドカーブのフラット化が早くも報じられ、「無意味」といった酷評を覆す変化が、出始めています。今回の声明では委員会の米経済の情勢認識が明らかに下方修正され、これまで景気低迷の根拠とされた一時的要因の比重は、むしろ軽微であると述べられ、暗に構造的要因を示唆しているとも言えるのでないでしょうか。6月頃から経済指標にも明らかに顕著になりはじめ、直近では1Q GDPがわずか0.4%に下方修正されるなど著しい景気減速が様々な「ショック」に対する脆弱度が増しているとの危機感が今回の決定の背景にあると思われます。

金融危機の渦中、米国そして世界を崩壊の淵から救ったとして賞賛を集め、金融危機研究の権威でもある現議長は、800年にも及ぶ金融史の研究から導き出された金融危機の著名な教訓に対し、過去に起きた金融危機の対処はそもそも誤りであるか、タイミングならびに規模の点で不十分であったとの認識に基づき、「今回は違う」とのニュアンスを随所に伺わせながら、それでも異例に高い失業率を初めとする景気の回復ペースに苛立ちを隠しきれぬ様子も示されています。

今回の決定は、景気減速が懸念される中、奇しくも米国史上初めての国債格下げ、欧州の債務危機再燃が重なり、金融市場が混乱を極める状況下で下された決定だけに、一部では短視眼的な早合点で、単純な株式市場対策との誤解が不可避となる、最悪のタイミングだったと思います。それでも敢えて、QE3への期待も一部高まる中、今この時点で低金利政策の継続期間明確化による前傾姿勢を示したことの意義は十分に高く評価されるべきものだと考えます。「少なくとも(!!)」2013年半ばまで、との大胆な時間軸の導入からは、後手に回って、或いは帯に短し政策を採ったところで無意味に近く、金融政策当局者として現段階で考え得る最大の使命を果たすとの姿勢が強く伺えます。

金融政策スタンスの相違を反映し、前述の様に今回の決定に対し3人もの反対票が出たわけですが、その根拠として今回の決定が株式市場対策だったとの誤解を与えてはならぬ、とのことだった様です。ただそもそも金融政策はマクロが対象であって先回のような危機を除いて個別資産をターゲットにすることはないというのが原則なはず。むしろそのような市場の誤解を正すべき立場の方が委員会の判断に対する反対の根拠をこのように説明されることに違和感を持つのは筆者のみでしょうか。

もちろん、ブラード総裁が述べられるとおり、究極的には神のみぞ知る将来の経済情勢の推移を明確な時間軸に固定したことで不可避となる「信認」のリスクを人質としたことを巡る是非は、私にはとても判断付きませぬけれども、今まで培われた議長の手腕への信認、今後の手さばきへの自信があるからこその決定だったことは間違いないはずです。

26日に議長の講演を控え、市場の関心はQE3の着手如何に向き始めていますが、QE2終了後の経済情勢が最も良く物語っているとおり、QEの政策効果への疑念が高いのも事実。ただし、これはQEによって供給された資金で確実にマネタリーベースが拡大する一方、信用創造には結びつかず、結果としてFRBの準備預金残高に置き換わっただけだったため、景気刺激効果が乏しかったと言え、規制や景気先行への不安といった金融政策の操作対象外の要因への対処も不可欠だとの事実が明らかにされたと評価できるでしょう。

さらには、QE2開始時との決定的相違であるデフレ懸念は消滅し、インフレへの警戒感が強まる現在、様子見姿勢継続との観測が多数派ではないでしょうか。いずれにせよ、米経済始め欧州・中国など不確実性の高まる今後の世界経済情勢の推移に注視せざるを得ません。下半期の持ち直しへの期待を断念するのはまだ早い、と願うばかりです。

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